その日は朝から晴天だった。
いつものラジオから
朝、娘たちを車で幼稚園へ送り、その帰り道。
いつも聴いてるラジオが流れている。
以前も書いたけど、わたしは晴天だとテンションが格段にあがる。
晴天=ご機嫌といった具合だ。
この日も気分上々。
お!
ラジオからいつものダンディーな声が聴こえてきた。
ちなみにこれはCMだ。
めちゃくちゃ低音の、とにかく低音の、ものすっごい低音の!声の感じからいくと、50歳前後の男性かな?
びっくりするくらいお色気たっぷりの艶声なのだ。
艶声をじゅうぶんに活用し、滑らかにしゃべるそのCMは、耳を大きくしてなぜかしっかり聴き入ってしまう。
しかも毎日流れるこのCM。
時間的には10秒くらいか?
むむ・・・。
今日も流れて来たな・・・。
闘いを挑まれた気分になるのだ。
こうなったらもう、ものまねせずにはいられない。
朝から無駄な挑戦が始まる。
わたしは女性だが、超低音ボイスだ。
がんばれば女性代表として、このかたの声そっくりさん5位以内に入れるかもしれない。
もうセリフもほとんど記憶済みだ。
わたしの勝手なイメージだが、このひとはきっと藤岡弘、に似ている。
見た目そっくりに違いない。
肝心の声のほうは、その藤岡弘、の低音ボイスを、かなり艶声にしたイメージだ。
少し得意げに、でも色気を忘れずに、流暢にしゃべるのがポイントだ。
まずは聴いたまま、すかさず真似てみる。
ここでさらなるポイント!
聴いてすぐ真似ることだ。
これはとても大切だ。
少しでも間が空くと特徴が脳裏から離れていくのだ。
一発目、真似てみて・・。
むむ。
ちょっと違うな。
もっと低音で色気を含ませないと。
もう一度真似る。
駄目だ。
身ぶり手ぶりまでいれたものだから、オーバーな艶声になり過ぎだ。
ええい、ならばもう一度。
駄目だ。声が細い。
もっと厚みのある太い声にしないと。
さらに真似る。
声の深みが足りない。
うーん、むずかしい。
セリフを言うとき、少し笑みを含ませながら、ダンディーさによりいっそう近づけみる。
ついにはうまくやろうと意識しすぎて、本人に近寄ってきてたのが遠のいてしまった。
こうなってくると、じゃっかん投げやりになってくる。
でも最後の彼の決めゼリフだけは似せたい!!!
ここだけは!!
ここだけは似せたいのだ。
そのセリフとは、
「お聴きのステーションで、お耳にかかりましょう!!」
本人が言うこのセリフは、このうえなくダンディーだ。
二か所にある「お」の部分をやや強めに発音するのがポイントだ。
練習は何度も続く。
学生時代帰宅部で、熱い部活動も未経験なのに、なぜかこんなことだけは熱心にやってしまう。
そして、猛特訓のあと、わたしは気づく。
朝から車でひとり何をやってんだ?と。
それに気づき、ひとりニヤニヤが止まらない。
でも耳にしたら離れないんだよな、あのCM。
真似せずにはいられなくなるのだ。
この気持ちが分かる方もきっとおられるであろう。
(いや、いてほしい。)
明日の朝も、同じ時間に車中で闘っているのだろうな。
声そっくりさん3位以内に入るのを目指して。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆